水戸勝田支部 『元気会』報告 (令和2年7月度)

2020.7.21
元気会幹事 渡部 浩

「元気会」は、故国松義輝(昭18専金)と故山本杢兵衛(昭20専通)の発案により、「喋る、笑う、ストレス追放」を目指し、会員の健康で長生きの為の懇親会として、平成10(1998)年2月に発足した同好会です。以来、毎月1回、会員が持ち寄った科学技術・法律・教育・健康衛生・語学など幅広い分野の話題を紹介し合い、自己啓発やグループ教育の場ともなっています。時には、外部講師による講演会や施設見学会も開催し、知識や知見を広め、会員の豊かな日常に繋げていきたいと考えております。

令和2年度の元気会は、新型コロナウイルス感染を避ける為、4月、5月は中止しておりましたが、7月より十分な感染予防対策を講じて、水戸市五軒町の「みと文化交流プラザ」で開催することとなりました。7月の講義は坂場英太氏(昭55院精)による「生物の呼吸システム」と岡野博親氏(昭33学電)による「16の健康神話を徹底検証」【後編】(No.9~No.16)でした。

以下に講義内容を紹介します。また、ご参考までに2020年3月の講義内容「16の健康神話を徹底検証」【前編】(No.1~No.8)も合わせて紹介します。

「生物の呼吸システム」

開催日:2020年7月21日
講師:坂場 英太

 今日の話題は、生物の呼吸システムについてです。

 原典は、ピーター・D・ウォードの「Out of Thin Air」*という本の翻訳本です。「薄い大気のなかから(進化した)」という意味のようですが、何が進化したかと言えば、話題の中心は鳥類の呼吸システムについてです。
 著者は、「地質年代を画するような新しいタイプの生物の出現は、すべて酸素濃度の変動によって生まれた。歴史上の大量絶滅(五大絶滅)は、酸素濃度が急落した時期と一致している。そうした時期には、低酸素という危機を乗り切るための新しい器官や新しい体制(ボディー・プラン)を持つ生物が出現し、そのあと酸素濃度の回復に伴って、体制の組み換えに成功した少数の種が、多様な生息環境に適応放散していった。」という仮説を提唱しています。つまり酸素濃度が高い時には効率の悪い呼吸器官で生きることが出来た生物も、酸素濃度が低下すると生き延びることが出来なくなり、大量絶滅が引き起こされる。低酸素条件の下で効率的な呼吸器官を進化させて生き延びた種は、酸素濃度が再び回復すると、ライバルのいない新しい世界でわが春を謳歌出来る、という仮説です。
 諸説あるようですし、話が長くなってしまいますので、今回はこの本に取り上げられている色々な生物、特にヒトと鳥類の呼吸システムについては少し詳しく、ネット上で収集した情報を織り交ぜて紹介いたします。    

*:Out of Thin Air(恐竜はなぜ鳥に進化したか)、文芸春秋2008年刊

1.軟体動物の呼吸システム

軟体動物の呼吸システム

                        まずは鰓で呼吸する生物のひとつ軟体動物。

①腹側類(巻貝)
 体を回転させ、殻の開口の先端を抜け、鰓を通過して、開口の後端から出て行く水流に対して鰓が正面を向く構造。

②斧足類(ふそくるい)(二枚貝)
 鰓をさらに大きくし、一対の殻で閉じた空間を作ることにより呼吸と摂餌を統合し、鰓を通過する水流を分割。

③頭足類(イカ)
 鰓を体の後方に残し、水を吸い込む推進力を繊毛から体全体の筋肉によるポンプ運動に変えることにより、鰓を通過する水流を強くした。

                            

2.尾索動物の呼吸システム

ホヤの呼吸システム

 ホヤなどが属する尾索動物は、魚類、鳥類、爬虫類、哺乳類など背骨のある動物(脊椎動物)として一括りになり、ヒトと同じ「脊索動物門」に属している。
 ホヤに背骨はありませんが、ヒトととても近い間柄にある生物ということは驚きである。
 尾索動物のうちホヤなどの被嚢類(ひのうるい)は、上面に二つの煙突を持つ。水は入水管から入り、摂食フィルターでもある大きな鰓を通過し、出水管から押し出される。このポンプ自体は、体の外壁の筋肉運動によって動かされる。
 被嚢類の袋状の体の内部は、無数の鰓で満たされており、それは極度に細分化され、大きく複雑な表面積を作りだしており、極めて効率よく酸素を水中から抽出している。

3.魚の呼吸システム

魚の呼吸システム

 対向流システムを利用する魚類の鰓では、酸素を豊富に含む海流の流れる方向と逆向きに血液が流れる。言い換えると、魚が前から後に向かって、鰓を通過するように水を取り込むとき、鰓を通過する血液は逆方向、つまり後から前に向かって進む。
 鰓を通過する血液は体からやってきたばかりのもので、運ばれるときに二酸化炭素から化学反応した重炭酸塩をたっぷり含んでいる。この重炭酸イオンを含む血液が鰓で二酸化炭素に変化する。そこで、二酸化炭素をわずかしか含まない外部環境と出会い、二酸化炭素は浸透によって溶液中から押し出され、気体として体から排出される。

 

 

4.昆虫の呼吸システム

昆虫の呼吸システム

 すべての昆虫は気管と呼ばれる方式を用いている。空気はこの細い管から組織に向かって拡散していき、空気は能動的に管のなかに送り込まれる。
 腹部を一定のリズムで拡張・収縮させるか、翅をはばたかせることで、気管の開口部(気門)の周りに空気の流れをつくり出すことにより、空気が気道に押し込まれる。

5.人の呼吸システム

人の呼吸システム

 人を含む現存する哺乳類は、すべて肺胞式と呼ばれる方式の肺を持つ。
 肺胞式の肺は、無数の密に血管が張り巡らされた球状の嚢、すなわち肺胞からなっている。空気はこの嚢に流れ込んでは出て行く。したがって双方向的で、これが肺胞式の肺の特徴である。
 このシステムは、空気をこの嚢の中に引っ張り込んで、酸素が二酸化炭素に置き換わったあとに、ふたたび吐き出さなければならない。ヒトはこれを胸郭の拡張と、横隔膜と呼ばれる筋肉の束の収縮との組み合わせによって行う。
 ただこの方式の弱点は、外から取り込んだ酸素豊富な吸気が、ガス交換後の二酸化炭素が多くなった呼気と、肺で混じりあってしまうことだ。ヒトの肺の場合、3リットル程度の体積を持っており、呼吸によって0.5リットル程度の新鮮な空気が取り込まれ、吐き出される。常に3リットル程度の空気があるところに、0.5リットル程度の空気が出入りするわけで、肺がガス交換に使える空気の酸素濃度はかなり薄まってしまう。さらに問題なのは、「行き止まりの肺に空気が入って来る」という点。
 ガス交換を行うことが出来るのは、肺の中でも毛細血管に接している部分に限られており、つまり、肺の表面付近でしかガス交換を行うことが出来ない。しかしながら、外から取り込んだ空気は肺の中心部分に運ばれる。したがって、新たに取り込んだ酸素豊富な層と、肺に残存している二酸化炭素豊富な層とが生じてしまうことになる。吸気がそのまま肺表面付近に到達することはなく、ガス交換後の「使用済み」空気と混じり合いながらしか利用されない。
 このように、空気を往復させなければならない哺乳類の肺は、効率が良いとは言えない。

6.鳥類の呼吸システム

鳥類の呼吸システム1

 爬虫類と鳥類に見られる隔壁式の肺は、一つの巨大な肺胞に似ている。呼吸ガス交換用の表面積を増大させる小さなポケットに分割するために、膨大な数の板状の仕切り組織がこの嚢ののなかに入り込んでいる。この仕切りが隔壁で、隔壁式という呼び名はそれに由来する。
 このシステムでは、肺そのものは小さくて、やや柔軟性に欠ける。したがって、鳥類の肺は、ヒトのように呼吸するたびに大きく膨らんだり収縮したりすることがない。しかし、胸郭は呼吸に非常に大きくかかわっており、特に骨盤に一番近いところにある肋骨は、胸骨の底部との接続部で非常に可動性があり、この可動性が呼吸をするうえで極めて重要である。
 しかし、現生の爬虫類や哺乳類と大幅に違っているのは、これらの肺が気嚢と呼ばれる付属器官を持っていることである。この呼吸システムは極めて効率的である。
 哺乳類(及び鳥類以外のすべての動物)は、空気を盲嚢(先が行き止まりななった袋状の構造)になった肺に取り込んだあと、吐き出す。
 鳥類はそれとは異なったシステムを持っており、鳥が空気を吸い込むとき、空気はまず一連の気嚢の中に入っていく。それから肺に向かって押し出される。空気は気管を下ってやってくるのではなく、気嚢の収縮で後ろから前に流れる。そのあと呼気は肺から前方の気嚢を経て外へ出る。肺の中を空気が一方向ににみ流れていくために、対向流システム(空気が一方向に流れ、肺の血液中の血液はそれと反対方向に流れていく)を作り上げることが可能になる。この対向流によるガス交換は、盲嚢式の肺で出来るものよりも効率的な酸素と二酸化炭素の排気を可能にする。気嚢は、対向流システムがうまく働くようにするための適応なのである。
 この特徴は、高高度での呼吸において圧倒的な優位性を生み出す。
 後気嚢群は、常に外部から取り込んだ新鮮な空気だけが流入し、前気嚢群にはガス交換後の使用済み空気だけが流入する。このため、肺においてガス交換に利用される空気の酸素濃度は、外部の空気の酸素濃度と同じになる。

鳥類の呼吸システム2

哺乳類が山を登るなどして標高の高い所へ行くと、あっという間に息が苦しくなってしまう。これは、ただでさえ空気が薄くなり、外部の空気の酸素濃度が低下していくのに加えて、肺の構造上の問題によってさらに酸素が薄められてしまうことに起因している。
 一方、鳥類は、外部の空気に含まれている酸素を薄めることなくそのままガス交換に利用出来るので、標高の高い場所でも問題なく呼吸可能である。例えばアネハヅルはヒマラヤ上空の高度8000m以上にまで飛び上がり、悠然と飛行することが知られている。

7.恐竜の呼吸システム(恐竜は鳥類のような呼吸システムを持っていたのか)

 上記のように、現生鳥類の呼吸システムは、他の陸生動物の肺よりも多くの酸素を取り入れることが出来る。標高ゼロ地点で鳥類は哺乳類に比べ33%も効率よく空気中から酸素を取り入れることが出来る。標高が上がると、その差は増大する。標高1500メートルでは、鳥類は哺乳類よりも200%も効率よく酸素を取り入れられる。

恐竜の呼吸システム
恐竜の呼吸システム

 もしそのようなシステムが、はるかな昔、酸素レベルが標高ゼロ地点でさえ、現在の標高1500メートル地点より低かった時代に存在したとすれば、そのようなデザインは競合ないし捕食において、とてつもなく有利であったはずだ。
 二畳期(ペルム期)後期からの低酸素の中で、多くの動物が絶滅するが、乏しい酸素を効率よく利用できる呼吸システムを生み出した恐竜が生き延び、酸素濃度が回復した三畳紀に爆発的な進化を遂げた、というのがこの本の著者の説である。
 つまり、鳥類の祖先ともいうべき恐竜は、鳥類と似た呼吸システムを持っていた、そしてそのような呼吸システムを持っていたがゆえに、繁栄したと述べている。

大量絶滅(付録)

 地球生命史の中で、生存していた種の7割以上が滅んでしまった現象を大量絶滅と呼び、少なくとも5回の絶滅が知られている。それらの絶滅時期と推定される種絶滅率は、オルドビス紀/シルル紀境界の約4億4370万年前(85%)、デボン紀後期の約3億6700万年前(82%)、ペルム紀/三畳紀境界(古生代/中生代の境界)の2億5100万年前(96%、史上最大規模の絶滅事件)、三畳紀/ジュラ紀境界の1億9960万年前(76%)、白亜紀/古第三紀境界(中生代/新生代の境界)の6550万年前(70%)である。白亜紀/古第三紀境界から高いイリジウム異常、衝撃による高圧変成鉱物、マイクロテクタイトなどが発見され、恐竜を始めアンモナイトやプランクトンなどの絶滅が隕石の衝突によるものと明らかにされた。他の4つの絶滅境界でも弱いイリジウム異常、衝撃による変成石英などが発見され、隕石の衝突が絶滅の原因とみられる。しかし、古生代末の最大絶滅は、激しい火山活動による太陽光の遮断、光合成の抑制、大気や海洋の酸素量の極端な減少、が原因といわれる。

*現在の酸素濃度:21%

酸素濃度・二酸化濃度の変遷と大量絶滅時期

酸素濃度・二酸化濃度の変遷と大量絶滅時期

元気会 講義風景

「16の健康神話を徹底検証」【後編】

多賀工業会水戸勝田支部「元気会」資料             開催日:2020年7月21日
『16の健康神話を徹底検証』(No.9~No.16)          講師 :岡野 博親(PRESIDENNT 2020.1.3号より)

検証者:稲島 司 (東京大学医学部附属病院地域医療連携部助教、循環器内科の専門診療に従事)
    岡田 正彦(新潟大学名誉教授、予防医療学・長寿科学が専門)
    牧田 善二(AGE牧田クリニック院長、糖尿病専門医)

 人の健康に関連して、真偽不明の情報が日々大量に流布され、しかも時間とともにその白黒やネタが入れ替わる。それは「①専門家たちの不勉強と自己都合、②資本主義社会の企業論理、③消費者目線の固定観念と思い込み、の3つが相まって、常に混沌としているのがこの界隈」(牧田氏言)。エビデンス(根拠)となる医学論文も、「世界的に信用度が高いのはごく一部にすぎない」(牧田氏)とのこと。
 今回はそこを十分に意識した3名の信頼できる医師の方々に登場願った。

サプリ・薬剤編

健康神話09.「グルコサミンは関節痛に効く」

検証評価(稲島氏):
 たしかに人間の関節の中にはグルコサミンやコンドロイチンなどの物質が入っています。
 ただ、それらのサプリを食べたからといって 直ちに関節に届くわけではありません。
 テレビのCMを見ていれば、効果があるように思えるんですが、実は「効く」とは一言も言っていない。「グルグル」と歌いながら膝を回す体操をしているだけ。視聴者はイメージ戦略にまんまとはまっているわけで、あのCMを考えた人は頭がいいですよね(笑)。
 実は、グルコサミンが効かないことを証明したオランダの大学の研究があります。約200人の高齢女性にグルコサミンと、見た目も形も色も同じプラセボ(偽薬)を2年間飲んでもらい、そのデータを取りました。もし本当に効くなら、本物のデータがプラセボを上回るはずですが、双方のデータに差がありませんでした。グルコサミンとコンドロイチンを併用したデータもありますが、同様に効果は確認できませんでした。

     → 総合評価は× で、関節まで届かない。

健康神話10.「コラーゲンでお肌がプルプル」

検証評価(稲島氏):
 面白い比較があります。プルプルすべすべの赤ちゃんの肌と象の表皮とでは、コラーゲンが多いのはどちらだと思いますか? 答えは象です。コラーゲンとはたんぱく質の一種で、主に動物の皮下組織にあるもの。牛革を使った革製品、要はバッグや靴も“コラーゲン入り”というわけです。
 チャップリンの映画「黄金狂時代」では革靴を茹でて食べるシーンがありますが、私は「コラーゲンを食べる」と聞くと、どうしてもこの映像が思い浮かんでしまいます。
 「コラーゲンでお肌がプルプル」と謳った鶏、もつ、すっぽんの鍋が人気ですが、残念ながら“お肌プルプル”の効果はありません。実は、コラーゲン自体は人間の胃や腸では消化できません。では、我々が食べているあのプルプルしたものの正体は何かというと、調理の熱でコラーゲンが変化したゼラチンで、そもそもコラーゲンそのものを食べているわけではないんです。

     → 総合評価は×で、胃腸で消化できない。         

健康神話11.「骨粗しょう症にカルシウム剤が効く」

検証評価(岡田氏):
 加齢に伴い発症しやすくなる病気の一つが、骨密度が低下する骨粗しょう症です。がんや心筋梗塞などのように直接生命を脅かしはしませんが、一度発症すると頻繁に骨折し、運動不足が続き、さらに骨がもろくなる悪循環を生じてしまいます。
 ご存じのとおり、丈夫な骨をつくるのにカルシウムは欠かせません。そのため、かつては骨粗しょう症患者にカルシュウム剤を処方するのが一般的でした。しかし、今では骨の代謝を活性化する新薬に切り替わっています。カルシュウムを過剰に摂取すると、体内では余剰分を体外に排出しようという働きが生じ、そのはたらきが機能しすぎると、丈夫な骨からもカルシウムを分解して尿と一緒に排出してしまい、かえって骨をもろくしてしまうことが近年の研究で明らかになったからです。
 こうしたサプリメントなどよりも、魚や納豆、野菜などカルシウムを豊富に含んだ食べ物をバランスよく摂るほうが、はるかに効果的なのです。

     → 総合評価は×で、摂りすぎると逆効果

健康神話12.「漢方薬は天然で安全」

検証評価(牧田氏):
 病院で処方されるケミカルな薬は強くて危険だが、漢方薬なら穏やかな効き目だから安全と、多くに人がこんなふうに考えているのではないでしょうか。でも、これは大きな間違いです。
 実は、漢方薬も西洋の薬と同じくらい副作用があります。医師会などで医療関係者に配られる資料には、漢方薬やサプリメントでひどい副作用を起こした例が報告されています。そこには、例えば肝臓にいいから、と飲酒の前に飲むウコンで逆に肝臓を悪くする事例も含まれます。かつて糖尿病の神経障害によいとされた八味地黄丸という漢方薬は、改善の効果がはっきりせず、今は使われなくなっています。ところが、いまだに進めている漢方薬局もあります。
 また、インターネットでも、漢方や健康食品のように見せかける、植物由来や動物由来の無承認・無許可医薬品などを目にします。服用するなら、安全だという先入観を捨て、信頼できる医師に相談してください。

     → 総合評価は×で、ひどい副作用のあるものも。

食 べ 方 編

健康神話13.「カロリー計算で肥満予防」

検証評価(牧田氏):
 「カロリーが血糖値をあげるので、太る」。日本肥満学会や日本糖尿病学会も、この考えに賛同している栄養士さんも、みんな「肥満はカロリー過剰」が正しいと信じています。多くの一般の人たちも「溜まった脂肪で肥満になるのだから、脂質は取らないほうがいい」と考えています。
 しかし、医療雑誌「The New England Journal of Medicine」に掲載された研究では、300人以上の中度の肥満者を対象に2年間、①低脂肪食でカロリー制限、②地中海食でカロリー制限、③カロリー無制限の低炭水化物食、というダイエットを行なった結果、カロリー制限をまったくしなかった低炭水化物が最も減量効果が高く、一方で脂肪を減らした低カロリー食がずば抜けて成績が悪いことがわかりました。痩せるためにはカロリー制限ではなく、糖質を減らすことが肝心。私と数名の医師が提唱する糖質制限ダイエットが注目されるようになったのは、実際に効果があるからなんです。

     → 総合評価は×で、カロリーではなく糖質。

健康神話14.「1日1食のファスティング」

検証評価(岡田氏):
 ファスティングや“ブチ断食”が近年話題ですが、決して健康増進効果はありません。確かに江戸時代は1日に1食、ないし2食しか摂らない家庭が一般的でした。現代から見れば、毎日ファスティングを行なっていたわけです。
 しかし、当時の平均寿命は30~40歳と、極端な早死に。その後、現代にいたるまで寿命は延び続けていますが、この延びは1日のカロリー摂取量に比例しています。現代人の長生きは、医療の発達によるものではなく、栄養を過不足なく摂取できるようになったからなのです。
 では、毎日3食摂る現代人が1食にへらしたらどうなるでしょう? 人間の体はカロリー摂取によって血糖値が適度に保たれるようになっているので、血糖値は下がり続け、無気力になったり、頭痛や吐き気、最悪で失神する可能性があります。
 ダイエットを目的にファスティングをするのであれば、3食バランスのいい食事を摂りつつ量を減らすほうが効果的です。

     → 総合評価は×で、現代人は3食がベスト。

健康神話15.「和食は栄養のバランスが良い」

検証評価(牧田氏):
 健康や栄養バランスの面でも注目され、無形文化遺産にも登録された「和食」ですが、実は韓国料理と並び、塩分と糖質の量は世界一と言えます。WHO(世界保健機関)では1日の塩分量を5g以下にするよう勧告していますが、日本の厚労省だと8g未満で、世界標準と比べても多くなっています。
 その上実際は8gよりも多い、男性で11g、女性で10gの塩分を摂っているとされています。塩分は血圧に大きく関係しますし、高血圧は人間の寿命を縮める最大の原因でもあるので、塩分は控えるに限ります。
 糖質については、私が提唱する糖質制限ダイエットだと、ご飯1杯(糖質約55g)で1日の糖質の50%に達します。糖質の過剰摂取は要注意です。
 ビジネスホテルなどの「和朝食」は、白いご飯とみそ汁がおかわり自由の場合が多いでしょう。しかし健康で長生きしたいなら、ご飯もみそ汁もおかわりはしないのが賢明です。

     → 総合評価は×で、塩分と糖質の量は世界一。

健康神話16.「締めのラーメンは最悪」

検証評価(牧田氏):
 飲んだ後の締めのラーメンは最高ですよね。でもこれ、多くの方が罪悪感を抱いているとおり、体にとっては最悪です。その諸悪の根源を「脂肪」だとイメージしがちですが、実は最も太る原因は、血糖値を上昇させる炭水化物、つまり「麺」です。
 これはご飯やパンも同様ですが、血糖値を下げるには、ご飯やパンと一緒にタンパク質や脂質、食物繊維などを一緒に食べたほうがいいということなのです。
 この理屈でいくと、信じ難いかもしれませんが、ラーメンよりチャーシューメンのほうが太りにくいことになります。その際、注意事項があります。先に麺を食べるのはダメで、必ずチャーシューを優先させます。タンメンやもやしそばなどの食物繊維も効果がありますが、肉(タンパク質)が入っているほうがベスト、一番悪いのが麺だけの具なしです。なお、ラーメンを食べた後は、すぐに20分ほど歩くだけで血糖値を抑えられ、肥満防止になります。

     → 総合評価は△で、チャーシューメンがベター。

「16の健康神話を徹底検証」【前編】

多賀工業会水戸勝田支部「元気会」資料 前期          開催日:2020年3月17日
『16の健康神話を徹底検証』(No.1~No.8)          講師 :岡野 博親
(PRESIDENNT 2020.1.3号より)

検証者:稲島 司 (東京大学医学部附属病院地域医療連携部助教、循環器内科の専門診療に従事)
    岡田 正彦(新潟大学名誉教授、予防医療学・長寿科学が専門)
    牧田 善二(AGE牧田クリニック院長、糖尿病専門医)

 人の健康に関連して、真偽不明の情報が日々大量に流布され、しかも時間とともにその白黒やネタが入れ替わる。それは「①専門家たちの不勉強と自己都合、②資本主義社会の企業論理、③消費者目線の固定観念と思い込み、の3つが相まって、常に混沌としているのがこの界隈」(牧田氏言)。エビデンス(根拠)となる医学論文も、「世界的に信用度が高いのはごく一部にすぎない」(牧田氏)とのこと。
 今回はそこを十分に意識した3名の信頼できる医師の方々に登場願った。

生活習慣・トレーニング編

健康神話01.「たばこでボケ防止、酒は絶対悪」

検証評価(稲島氏):
 「たばこを吸う人はボケにくい」という噂があるが、まったくの出鱈目です。たばこは骨粗しょう症、胃潰瘍、胃がん、心筋梗塞などに悪影響を及ぼし、百害あって一利なしです。一方酒は、飲み過ぎはγ-GTPが高くなり、咽頭や食堂、肝臓に悪影響を及ぼす・・・ここだけ切り取れば悪です。ただし適量であれば心臓血管疾病や認知症はまったく飲酒しないグループと比較すると低下する傾向も報告されている。要するに酒は良い役にも悪い役にもなるので、自己責任ということに尽きる。

     → 総合評価は△ で、“ボケ”は事実無根、酒は自己責任。

健康神話02.「ウォ―キングは朝がいい」

検証評価(岡田氏):
 ウォーキングは最高の健康増進法である。「朝が効果的」というイメージが浸透しているが、実は夜であっても効果に差はない。1日30分程度行うことが重要で、分割して行なってもよい。ただしダラダラ歩きは禁物。近年の調査で歩くスピードが大事だということが立証されている。1分間に「165-年齢」の心拍数になるようなスピードでのウォーキングが最も効果的である。

     → 総合評価は○で、夜でもいい、速度が大事。

健康神話03.「体幹にはバランスボール」

検証評価(岡田氏):
 現代人の寿命が延びたのは十分なカロリー摂取で丈夫な心臓をつくり上げたからです。しかし、体の中でその延びに追いついていけていないのが骨と筋肉。丈夫な骨と筋肉を維持するには、食事のみならず適度な運動が不可欠です。週に5時間以上運動している人は、認知症になる確率が5分の1になるという調査結果があります。これは丈夫な骨と筋肉を維持したから、とも言えます。転んで骨折して寝たきりの生活を送った結果、認知症になる方が少なくありません。
 近年ではバランスボールを利用したトレーニングが普及していますが、やりすぎは禁物です。確かに筋肉と体幹を鍛える効果はあるし、転倒防止にも繋がるでしょう。しかし、オフィスでイス代わりにバランスボールを利用すると、かえって腰を悪くするという調査結果もあります。運動に慣れていない人が使うと、バランスを崩してケガをする危険性も。これで寝たきり生活になっては、本末転倒です。

     → 総合評価は△で、効果はあるが、腰に注意。

健康神話04.「2ℓ以上の水を飲むとよい」

検証評価(岡田氏):
 水を1日2ℓ飲むと「代謝がアップして痩せられる」と数年前に話題になりました。しかし、一般の人はご飯などの固形物に含まれる分を含めて、毎日2.3 ℓ程度の水分を摂取しています。にもかかわらず、さらに半ば強制的に水を2ℓ摂取すれば、明らかに水分過多です。
 水分はすぐに尿になって排出されるイメージがありますが、実は腎臓が非常に複雑な仕組みを通じて尿をつくり出しています。その過程で膨大なエネルギーを消費するため、水を飲みすぎると体がだるくなる傾向があるのです。胃液が薄まって食欲は低下しますし、しかも一時的に血液を薄めて血中のナトリウムやカリウムの濃度が低下するため、こむら返りや、時には痙れんも起こりやすくなります。これらは夏バテの症状と一致します。実は、夏バテの原因が、熱中症予防を目的とした水分の過剰摂取だった、というケースは少なくないのです。

     → 総合評価は×で、“夏バテ”になる危険性。

 

食 材 編

健康神話05.「納豆で血液サラサラ」

検証評価(稲島氏):
 ここ数年「血液サラサラ、ドロドロ」という表現を見かけますが、そもそも人間の血液の粘性を食べ物で簡単に変えられるわけがありません。火付け役はテレビの健康特集ですが、もしそんな食べ物があったら、毎日食べると大出血することになります。
 動脈硬化が進んで血管に血栓ができたり、心臓や血管の病気のリスクが高まった人は、抗血小板薬や抗凝固薬といった血栓を予防する薬 (ワーファリンなど)が必要な場合はあります。この薬を患者にわかりやすく説明するために「血液をサラサラにする薬です」と医者が言うことがあります。
 血液サラサラの食材としてよく納豆が挙げられますが、ワーファリンを飲んでいる人は食べないでください。納豆のビタミンKがワーファリンの効果を消してしまいます。

     → 総合評価は×で、粘性は食べ物で変えられない。

健康神話06.「魚の目を食べると目にいい」

検証評価(稲島氏):
 「魚の目を食べると目がよくなる」、「レバーを食べれば肝臓が元気に」など、体の気になる部位と同じ部位を食べると病気が治る、と年寄りから聞いたことはありませんか? これはまったく根拠がありません。発想はカニバリズム (人間が人間の肉を食べる行動、あるいは習慣をいう) の習慣と似ていると思います。例えば村で村長が亡くなると、村人は村長の頭をかち割り脳みそを食べ「村長の知恵」をいただく。腕っぷしの強い人が亡くなれば筋肉を食べて強くなりたいと願う。古代に行われていた習慣を令和になった今も続けているのは滑稽です。
 ですから「飲み会ではレバーを食べて肝臓を守る」のは意味がありません。消化吸収されたレバーが体内で都合よく再合成されることはないし、アルコールを早く分解する効力もありません。ちなみに魚の目はともかく、魚そのものをよく食べる人は心筋梗塞や脳卒中、認知症のリスクが下がります。

     → 総合評価は×で、古代の習慣の発想と似ている。

健康神話07.「塩と米は白より茶色」

検証評価(稲島氏):
 昔、白米中心の食事をしていた武士の間で「江戸患い」という病が流行りました。これはビタミンB1不足による脚気です。白米は純粋な炭水化物なので低栄養、低ビタミンの食品です。最近「白い食べ物は体に悪い」といいますが、これは半分当たっています。例えば白い小麦粉は小麦の皮を剥いで精製度の高い炭水化物にしたもので、全粒粉は周りの皮も一緒に挽いた茶色いもの。真っ白なパンを全粒粉のパンに置き換えるだけで糖尿病が減るという臨床研究結果もあるぐらいです。
 米も同様で、白米を玄米に替えるだけで糖尿病が減り、その先の心臓・血管の疾患も減少します。ただ、「茶色い食べ物がいい」風潮に乗ってわざわざ食品に色をつける業者がいるので要注意。一部の飲食店などにあるピンク色の塩が典型で、ヒマラヤ岩塩に見えるようにわざと着色しています。そもそも岩塩に含まれる塩化ナトリウム以外の成分は1%未満。食卓から岩塩に替えても大きな差はありません。

     → 総合評価は△で、玄米は○で、岩塩は大差なし。

健康神話08.「オリーブオイルは体にいい」

検証評価(稲島氏):
 2003年、スペインが国を挙げて行なった「PREDIMED」という有名な臨床研究で、オリーブオイルやナッツを追加した地中海食では心筋梗塞や脳卒中が減るという結果が出ました。産業振興の側面は否めませんが、実際、この前後に同じような臨床試験が何度も行なわれ、同様の結果が出ています。

※  PREDIMED:Prevencion con Dieta Mediterranea の略。スペインの多施設において、2型糖尿病または心血管疾患リスク(喫煙、高血圧、LDL高値、HDL低値、肥満、冠動脈疾患の家族歴)を3つ以上持つ患者に対して、地中海食の心血管疾患の発症抑制効果を検討した大規模臨床研究である。744例という極めて多くの被験者を対象とした。

 私が実践しているのは「地中海食ダイエット」です。地中海食とはイタリアやスペイン、ギリシャなど、魚介類や野菜、果物、豆、穀物を多く摂り、オリーブオイルをたくさん使う料理です。私は毎朝、どんぶり一杯の野菜に、少量のスモークサーモンや豆類、ナッツをトッピングし、オリーブオイルをドボドボかけて食べています。皿の3分の1くらいはオリーブオイルで浸す。心血管疾患を予防する効果も期待できるので、一石二鳥です。

     → 総合評価は○で、ドボドボかけてOK。

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